TEXASをメンテナンスしたぞ!のコーナープロジェクトTEXAS


第1章 きっかけ

ここ数年,愛器TEXASの弦が切れやすくなってきた.例を挙げると,2〜3年前に先輩の結婚式2次会で演奏する機会があったのだが,本番に向けてのスタジオ練習時には,2時間もしないうちに切れてしまった.特に2弦がヒドかった.本番では,直前に張り替えたので事なきを得たのだが,それ以来”弦切れ”がすごく気になっていた.
弦が切れるのは,弾き方によるものもあるとは思うのだが,TEXASの場合は違う感じがしていた.なぜなら,もうひとつのストラト(STEVIE)では,それほど弦切れには悩まされなかったのだ.
よし,TEXASもいい年(?)になってきたことだし,いっちょ身体の隅々までメンテして痛んだところは修理してあげよう!


第2章 健康診断

まずは,現状の状態をくまなくチェック.

メンテ前のブリッジ ← 写真1(左:トレモロ全体)
長年弾きこまれたトレモロ部分.サビと汚れが目立ってきた.


→写真2(右:サドルのアップ)
1〜3弦のサドル部分.写真では見にくいが,弦のあたる部分には弦のすりキズみたいなものがあり.
ここに弦が引っかかって切れやすくなっているのかもしれない.
メンテ前のサドル
ネックのセンターずれ ← 写真3(左:ネック)
よ〜く見ると,指板のポジションマークが,少しだけ3弦寄りになっているのがわかる.(本来は3弦と4弦の中央)
ネックのセットが少しだけ傾いているのが原因で,6弦が指板ギリギリに対し,1弦は2〜3mmほど余裕がある.
出音にはあまり影響ないかもしれないが,バランスがとれていないのは,鳴りは悪くはなっても良くはならない.
演奏性にはもちろん影響ある.よし直してしまおう!


第3章 まずはトレモロを分解

さあメンテ開始だ!まずは一番メンテしたかったトレモロ部分から行こう.今回はトレモロを全て分解して研磨するつもりだ.まずは弦を全て外す.またトレモロスプリングを外すため,ボディ裏のスプリングホルダー(スプリングがかかっている鉄板)の2本ネジを緩める.こうしてからペンチでスプリングを持ち上げるとスッと外せるのだ.
そして,トレモロとボディを留めている6本のネジ(写真1)を慎重に外していく.これでトレモロは完全に分離できた.

次にトレモロ自身を分解していく.サドルについているオクターブ調整ネジを1本ずつ外し,サドルを外していく.わぁ,すごい埃とサビだ.掃除し甲斐がありそう.さらに,サドルを研磨したいので弦高調整ネジも全て外した.ネジとかスプリングとか小さい部品ばかりだ.なくさないようにまとめて保管しておく.最後にブリッジプレートとイナーシャブロックを留めている3本のネジを外す.これで全部が分解できた.(写真4参照)
しかしFenderのトレモロって,うまいこと出来ているなぁ.たったこんだけの部品で出来ているんやもんな.
ばらしたトレモロ
↑写真4
分解したトレモロ.特に弦高調整ネジは錆付いて,外しにくかった.全部バラしたことで,後の作業がやりやすくなるはず.


第4章 そして研磨

最初にも書いたように,今回のメンテの目的は「弦切れ防止」だ.見た目はきれいにならなくても,弦の当たる部分は滑らかにして,できるだけ弦が切れないようにしたいものだ.

まずはサドル部分.第2章の写真2でもわかるように,弦のあたる部分にいくつもの「弦のスリキズ」のようなものができている.まずはこいつを修復してあげねば.
幸いにも,ヤスリを使うまでもなく,キズ部分を耐水ペーパー(#400くらい)で磨くことでキズが目立たなくなってきた.綿棒の先に耐水ペーパーをあてがいながら,少しずつ少しずつ,根気よく磨いていく.キズが目立たなくなってきたところで,ペーパーの目を細かくして(#600〜800)仕上げていった.ここは音に関わる部分なので,変な角度などがついてしまわないようにまんべんなく慎重に磨いていく.

20分も経ったろうか,ようやく1個が完成した.う〜ん,やっぱ神経使うし疲れる.でも仕上がりは結構きれいだ.ここはTEXASのために頑張ろう!・・・そして2時間後,ようやくサドル部分が完成ぃぃぃ!かなりの重労働だ.でもスッキリしたぁ.

でも,ここで終わるわけにはいかない.弦のあたる部分はまだあった.そう,ブリッジプレートにある弦の通す穴である.よ〜し,この部分もエッジをなくして,少しでも弦にストレスがかからないようにしてあげよう.
またもや綿棒にて丹念に磨いていく.もともとエッジとなっている部分はなかったかもしれないが,極力曲面状に磨いた.
メンテ後のサドル
↑写真5
研磨後のサドル.弦の乗る部分がなめらかになっているのがわかるかな?(写真2と比較したらわかる?)
磨きすぎてやや下地がでてるけど,見た目だけの問題やからあまり気にしてないの.

あと,トレモロの要である「ボディ留め部分のネジ穴」も磨いた.ここはナイフエッジ(尖っていて抵抗を少なくしている)なので,角を鋭角にするよう磨いた.その他,各ネジの頭やイナーシャブロックの弦を通す穴まで磨き,長年の垢を落としてあげた.う〜ん,ピッカピカ!!気持ちいいでしょ?TEXAS!
あとは元通りに組み上げるのみ!ひとまずトレモロ部分のメンテは終了!!


第5章 トレモロ搭載

メンテしたトレモロの各部品を,元通りに組み上げていく.特に注意していたのが「イナーシャブロックとブリッジプレートの組み方」だ.まあ組み付くようにしか組み付かないのだが,アームを2回も折っている関係上,ブリッジプレートとアームの隙間があることが気になっていた.
なんとか改善すべく組み付け方を考えた.まずは仮組みの状態でアームを装着.隙間を詰めるようにしてから3本ネジを締め付けた.気持ちの問題かもしれないが少しは改善されるはずである.その後,サドル・弦高調整ネジ,オクターブネジを組み付け,無事トレモロ部分が完成!

あとはボディへの搭載である.これは一見ネジを締めるだけで簡単そうに見えるが,実はシビアな調整が求められるのだ.絞めすぎても緩くてもアーミングの際にチューニングのずれとなって現れ,サスティーンにも影響する可能性がある.特にMORYのようにアームを頻繁に使う人には重要な部分なのだ.

→写真6
搭載完了したトレモロ部分.結構ピカピカでしょ?
ネジは計6本.1本ずつ,ネジ頭とブリッジプレートがつかずはなれずの状態になるよう締め,同時にアーミングしながら変な抵抗がないか確認しながら慎重に締めていった.
ネジを締めるだけで所要時間30分.結構しんどい作業だった.
メンテ後のトレモロ



最終章 ネック関連調整

次はネックだ.第2章の健康診断でも記述したように,ネックの中心がややずれている.また他には,演奏上は支障がないのだが下記のようなことが気になっていた.

【オクターブ調整の際「サドルが前に寄りすぎている」】
これは弦長がやや長い事を意味し,サドルを前にすることで弦長を短くしてオクターブをあわせているのだ.実際STEVIEとの弦長を比較すると,TEXASの方が1.5〜2mm程度弦長が長かった.もしかしたら,ネックとボディのつなぎ目に隙間などがあるかもしれない.

【弦高調整ネジを結構上げても弦高が低い】
これは,「ネックがボディ裏側に向かって傾いている(逆反り方向)」の時に出る傾向だ.もしくは,上記のようにオクターブ調整のためサドルを前に出し気味のため,弦の角度が小さくなっているのかもしれない.オクターブ調整がうまく改善できれば,これも改善されるかもしれない.

ということで,改善するにはネックを外さないことには始まらない.早速外す.

ネックを外した状態 ←写真7
ネックをはずしたところ.ボディー側のネックをセットする場所(ネックポケット)に黒の塗装が残っている.平面度や密着度の面からも,底面の塗装を剥がすことにした.
また,ブリッジ側の側面の塗装はあってもよいが,前述のようにオクターブ調整の要求から出来るだけネックをブリッジ側に近づけたいので,ここも剥がすことにした.
(ちなみに,写真では見にくいが,ネックエンド部分にネックデイト(4/14/88)が鉛筆で記入されている.)
ネック裏←写真8
ネックのジョイント部の裏(17〜21fあたり)だが,製作に携わった人だろうか,名前が書いたシールが貼ってあった.更には,ボディ色の黒い塗料が貼り付いている.ここも一緒に剥がしてしまってジョイント部の平面を出すことにした.
写真右側の四角いシールはシムと呼ばれ,ネックの角度を微調整するもの.こいつも剥がしてしまうことに.なぜなら,こいつがあるとネックは逆反り方向に傾くからだ.このシムを剥がすことにより,少なからずも順反り方向にネックが傾く=弦高が高くなるっていう寸法だ.(注:シムは作成者が意図して付けているはずなので,本当は外さないほうがいいはず?やる場合は自己責任でお願いね!)
→写真9
上記作業を全て終え,ネックを仮組みした状態でブリッジ側に押し付け,隙間をなくすような感じでネジを締め付けた.もともと隙間はほとんどなかったが,今回塗装を剥がした状態でもピッタリと組み付いているのが確認できた.そして弦を張りオクターブ調整を実施.
ネックを取り付け

劇的な改善はなかったが,オクターブ調整ネジを1/4回転ほどブリッジ側に設定することができた.これが限界かな.あとやるとすれば,トレモロをフローティングに設定するか,ネックポケットのネジを通す穴を研磨する(「木ネジで直接ねじ込んだような跡」を取る)ことくらいかな.まあ,フローティングは演奏上あまり好きではないし,ネジ穴研磨は大仕事なのでまた機会があれば,ということにしよう.とりあえずはメンテ完了!


あとはいつものようにチューニングのずれ防止のため,ナットやスプリングガイドに「鉛筆の芯すりこみ」や「Finger Ease吹きつけ」を実施し,ひとまずメンテは完了.これにて無事「プロジェクトTEXAS」は幕を閉じました.

どう?さっぱりとしたでしょ?TEXAS.またいい音を奏でてちょうだいね!

ピックガード剥がすとコンパウンドの粉が・・・ 茶色いのはコンデンサ メンテ後のトレモロを搭載 ネックも外してメンテしました この散らかっている中で作業しました プロジェクトTEXAS


− 完 −